宅地建物取引士 試験
民法
時効
チェック項目
取得時効が「成立する要件」と「年数」は?
民法の時効制度には、「取得時効」と「消滅時効」の2種類があります。
1. 取得時効
取得時効とは、「一定の事実状態」が「一定の期間継続」することにより、一定の財産権を取得することをいいます。
① 取得時効は所有権だけでなく、地上権、地役権も一定の要件を満たせば取得することができます。
・ 判例では「賃借権」であっても、時効により取得できるとしている。
② 地役権を時効取得する場合、「継続的に行使され」かつ「外形上認識することができるもの」であることが要件となります。
2. 取得時効の成立するための要件
① 取得時効に必要な「3つ」の「占有」とは
取得時効は、 「所有の意思」をもって、「平穏」であり、かつ、 「公然」と他人のものを一定期間「占有」することが必要です。
(時効取得するためには、「3つの占有」が必要である)
・ 所有の意思を持った占有を、「自主占有」という。賃貸借契約に基づく賃借人のような「他主占有」は認められない。
② 取得時効に必要な年数
取得時効が「成立」するためには、上記①の占有だけでは成立しません。その状態を「一定期間継続」する必要があります。この期間は下記の「いずれか」 になります。
- 占有の始めが「善意無過失」の場合→10年が必要となる
- 占有の始めが「悪意」または「有過失」の場合→20年が必要となる
・善意か悪意かの判別は、下頁事例(2)のように「占有の始め」で判断する。
[試験の落とし穴]
<占有は「間接占有」でもよい!>
占有する者は、所有者自身が占有する「直接占有」だけではなく、賃借人などによる「間接占有」(=代理占有)の期間も算入することができる。
[取得時効の年数]
事例1.
年数は前主の者の年数も加えられるが、善意・悪意も承継する
(8年間占有) (7年間占有) (6年間占有)
A―――――――――→B―――――――――→C
悪意 善意無過失 善意
| ↳CがBのときより主張→10年必要→OK!
↳CがAのときより主張→悪意で20年必要→OK!
解説
① 10年、20年の年数は自己の占有期間だけではなく、前主の年数も加えることができる
② 前主A・Bの年数を加える場合には、A・Bの善意、 悪意なども引き継ぐことになる
[「占有の始め」で判断する]
事例2.
(6年間占有) (5年間占有)
善意無過失 悪意
A―――――――――→B = BがAのときより主張すると、 Bが悪意でも「10年」でよい
善意無過失
A―――――――――→A = Aは占有の始めが善意無過失で、途中から悪意に変わったとしても、「10年」でよい
↑_ 悪意(=知った)
解説
① 占有の始めで判断するのであるから、占有の始めが善意無過失であれば、次の承継人が悪意や有過失であっても善意無過失と判断する(=10年となる)
② 占有の始めが善意無過失であれば、後で悪意になっても、善意無過失と判断する(=10年となる)
チェック項目
消滅時効が成立する「要件」とは?
1. 消滅時効
「消滅時効」とは、「権利行使ができるにもかかわらず、一定期間権利を行使しない場合に認められる制度」です。
① 消滅時効は一般の「債権」だけではなく、地上権や地役権なども消滅時効にかかります(使ってないのであれば消える)。
② 「所有権」は、その年数に関係なく、絶対に「消滅時効」にはかからない(問題文に所有権が消滅するという記述があれば誤り)。
2. 消滅時効の成立要件
消滅時効が成立する要件は、「権利行使ができるにもかかわらず」「一定期間権利を行使しない」ことです。 ここで問題となるのは、下記の「2点」です。
① 「権利行使ができるとき」とは「いつ」をいうのか?
起算日は「確定期限付債権」「不確定期限付債権」「期限の定めのない債権」によって異なります(下頁参照)。
↓
② 「一定期間権利」を行使しないこと(=期間の問題) 法改正
この期間は権利を行使できることを知った時から5年間、権利を行使できる時から10年間です。
3. 時効の利益の放棄
時効の要件を満たしても、時効を主張しなければならないわけではありません。例えば消滅時効の場合、「自分は借金を支払う」というのであれば、それを法が妨げる理由はありません。これを「時効の利益の放棄」といいます。この内容については、下記の点に注意しましょう。
① 時効の利益を放棄できるのは、「時効完成後」のことであり、時効が完成する「前」にすることはできません。
② 時効完成した「後」に、その事実を「承認」したときは、時効の援用をすることはできなくなります(時効の利益の「喪失」という)。
[消滅時効の「起算日」と「年数」]
「起算日」 |
① 確定期限付債権の場合→期限到来のとき |
10月8日に代金を支払うとした場合 →10月8日が起算日となる 。 |
|
② 不確定期限付債権の場合→期限到来のとき |
|
父が死んだら代金を返済するとした場合 →父が死んだ日が起算日となる (履行遅滞との相違に注意・契約総論/契約の基本的事項/条件と期限/債務不履行/手付/損害賠償/危険負担) |
|
③ 期限の定めのない債権の場合→債権成立のとき |
|
売買の目的物の引渡し時期を定めていない場合 →契約成立時が起算日となる |
|
「年数」 |
・通常の債権・・・権利行使できることを知ってから5年間、権利行使できる時から11年間
・地上権・地役権等・・・権利行使できる時から20年間 ・確定判決により確定した権利は、10年より短い時効期間であっても10年となる |
↓
[消滅時効の流れ]
図1.
[権利行使できることを知った時] + [通常の債権・・・5年] + [・援用・放棄]
図1・時効を更新させる場合→通常の債権・・・5年 時効の更新と「完成猶予」事由まで移動
① 更新事由
・裁判上の請求(確定判決等)
・強制執行等
・承認
② 効果
それまで進行していた時効期間が新たに振り出しに戻る
図1・時効が完成した場合・・・放棄
時効が完成し、「援用」すれば時効の利益を受けることができる。
① 時効が完成し、援用するとその効果は起算日にさかのぼる。
② 時効期間満了後に「放棄」や債務負担を「承認」した場合、もはや援用することはできない。
チェック項目
時効の「更新事由」と「効果」は?
1. 時効の援用
時効の要件を満たしても、時効によって利益を受ける旨の意思表示をしなければなりません。これを「援用」といいます。
① この「援用」がなければ、裁判所はそれに基づいて裁判をすることができません。
② 援用ができる者とは、時効完成により「直接利益」を受ける者をいい、「保証人」・「物上保証人」・「連帯債務者」・抵当不動産の「第三取得者」 などをいいます。
2. 時効の援用の効果
① 時効の援用をすれば、時効による効果が発生します。この時効の効果は「起算日」にさかのぼります(=時効が完成した時からではない)。
↓
② 「取得時効」の場合、その物は最初から時効取得者の物となります。 これを「原始取得」といい、たとえ時効取得した不動産に抵当権がついていても、その抵当権は消滅します(抵当権がつかない不動産を取得することになる)。
↓
③ 「消滅時効」の場合は、その債権は初めからなかったことになり、その結果、その時効期間中の利息も支払う必要はなくなります。
時効が完成すると、元の権利者は最初からその権利がなかったことになります。これを阻止するためには、時効を「更新」させる必要があります。
① 「時効の更新」とは、一定期間継続している状態を「振出しに戻す」 ことをいいます。更新事由が「終了」した時より時効は「新たに進行」 します。
② 「時効の完成猶予」とは、時効期間の進行は止まりませんが、本来の時効期間が過ぎても、一定期間が経過するまでは、時効は完成しないという制度です。
[時効の更新事由と完成猶予事由]
時効は「下記の事由」により「更新」する |
||
請求
|
裁判上 |
① 「裁判上の請求」「支払督促」「和解・調停の申立」 「破産手続きの参加など」 |
ポイント ・「裁判上」の請求の場合、時効完成が猶予されるが、 訴えを提起しても、却下されたり、取り下げられた場合は 更新したことにならない ・裁判が確定した時より新たに時効が進行する |
||
承認 |
②「承認」とは、「債務があることを知っている」と 認めたことである |
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ポイント 「利息だけ支払っておく」「一部だけ弁済する」などの 行為は承認したことになり、時効は更新する 物上保証人が金銭債務の存在を承認しても、 消滅時効は更新しない |
||
時効を完成猶予する事由 |
||
仮差押え等 |
仮差押えや仮処分した場合、その事由が終了した時から 6ヶ月経過するまでは、時効は完成しない |
|
催告 |
催告した場合、催告してから6ヶ月を経過するまでは、 時効は完成しない |
↓
時効の更新と完成猶予
更新
(裁判上の請求) (時効) (確定判決)
――――↑―――――――↑――――――↑―――――→
↳新たに進行
・(時効) から(確定判決)まで時効は完成しない
完成猶予
(裁判上の請求) (時効) (時効完成)
――――↑―――――――↑――――――↑―――――→
・(時効)から(時効完成)まで6か月時効は完成しない
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